CO2排出と太陽電池
CO2の排出量の増加による地球温暖化、それに伴う気候変動などが新聞やテレビ等で日常的に叫ばれるようになって久しいものがあります。
現在、電気はその大部分が石炭、石油、天然ガスなどの化石エネルギーから製造されており、大量の CO2(炭酸ガス、二酸化炭素)を排出しています。電気事業におけるCO2排出量は、日本の総排出量(約12.14億トン:平成20年実績)の約30%の3.87億トンに達しています出典1)。
これに対して、太陽電池など自然エネルギーは、発電時に CO2を排出しないとして、地球温暖化防止の救世主のように言われる場合もあります。メーカーのカタログ等では、「太陽電池の導入により年間○○kgのCO2を削減できます。これは、樹木○本分に相当します」などという表現が見られます。ここでは、CO2排出と太陽電池の関係について考えてみます。
電気とCO2排出量
上に述べたように、現在、電気はその大部分が石炭、石油、天然ガスなどの化石エネルギーから製造されています。それに伴って、電気事業全体では年間3.87億トンのCO2を排出しているということはすでに述べました。でも、3.87億トンといわれてもピンときません。
ここでは、もう少し掘り下げて電気とCO2排出量についてみていきます。
まず、現在我々が使っている電気がどれくらいのCO2を排出しているかをみてみましょう。
我々が、消費電力1kWの電気器具を1時間使用すると、1kWhの電気を消費します。その結果、どれくらいのCO2を排出していることになるのでしょうか。
電力事業会社は発電で排出したCO2の量を毎年公表しています。そのデータは個々の電力事業会社のホームページで見ることができますが、環境省のホームページ出典2)にはまとめて掲載されています。そこには、地域ごとのいわゆる10電力会社のほかに、新電力事業会社のデータも公表されています。この数値は、年度ごとおよび会社ごとに異なります。発電形態(火力、原子力、水力など)の割合が、年度および会社ごとに異なるからです。
最新のデータ(2020.1.7公表)を環境省のホームページから抜粋して以下に示します。
| 北海道 | 東北 | 東京 | 中部 | 北陸 | 関西 | 中国 | 四国 | 九州 | 沖縄 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 643 | 522 | 468 | 457 | 542 | 352 | 618 | 500 | 319 | 786 |
注)環境省のサイトでは、実排出係数と調整後排出係数の2つが併記されています。実排出係数というのは、発電によって実際に排出した量です。調整後排出係数というのは、たとえば、排出削減プロジェクト(他国での森林植林など)などを実施している場合は、実排出係数からそれを差し引いたものです(京都メカニズムによるクレジット)。
ここでは、次の項で太陽電池との関係を議論しますので、実排出係数のみを抽出し、表記載の単位t-CO2/kWhをg-CO2/kWhに変換して、単に排出量として記載しています。1KWhの電気を作るのに何gのCO2を排出しているかという数値です。
これを見ると、沖縄電力は786gと最も高い数字になっている反面、最も少ないのは九州電力で約320gとなっていますが、大体500g~600gのCO2排出量となっています。500gといえば、飲料水入りのペットボトル500mlとほぼ同じ重さです。したがって、1kWの電気器具を1時間使うと、500mlのペットボトル1本~2本のCO2が排出されているということになります。でもこれはCO2が液体であったらという話です。CO2は常温(25℃)では気体です。気体だったらどうなるのでしょう。液体の体積を気体の体積に直すには、化学の知識が必要です。ここで、ちょっと寄り道をしてうんちくを傾けることにします。化学の知識をお持ちの方は飛ばしてください。
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CO21gは気体では何ℓ(リットル)か?
CO2は炭素1分子と酸素2分子からできています。炭素の原子量は12、酸素の原子量は16です。したがって、CO2の分子量は12+16×2=44となります。そして、あらゆる気体がその分子量に相当する重さのときに占める体積は、0℃、1気圧という条件(これを標準状態という)の時、22.4ℓです。したがって、CO244gが占める体積も標準状態では22.4ℓです。
気体は温度が上がると一定の割合で膨張します。つまり1℃上がると体積が273分の1増えます。常温25℃では25℃上昇分体積が増えるのでそれを加算すると、22.4×(1+25/273)=約24.5 ℓになります。以上から、CO244gは気体にすると、その体積は常温では24.5 ℓとなります。よってタイトルの質問、CO21gは気体では何リットルか?の答えは、24.5÷44=約0.557ℓ=557mlということになります。ちなみに、CO21kgは557ℓ、1トンは557m3ということになります。
よって、500mlのペットボトル1杯分の液体を、気体にするとCO2500gは500×0.557=278ℓとなり、これを詰めるには2ℓのペットボトル約140本が必要と計算されます。
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さて、本題に戻ります。我々は電気の使用によって、毎年どれくらいのCO2を排出しているのでしょうか。家庭の電気使用量が平均1カ月400kWhだったらと仮定して以下の計算を進めます。
まず、1年間のCO2排出量を計算しましょう。地域ごとの電力会社の数値を使って計算してみてください。管理人の場合は東京電力管内ですので、400kWh×12か月×525g/kWh=2,520,000g=2,520kgになります。これを気体にすると、どうなるでしょうか。2520kg×557ℓ=1403640ℓ=1403.64m3≒1,400m3となります。
これがどれくらいの量なのか、こういう場合によく引き合いに出される東京ドームの容積と比べてみましょう。東京ドームの容積は、124万m3といわれています。1,400 m3はその約900分の1なので、約900世帯分を集めればドーム1杯分ということになります。
ちなみに、電気事業全体で排出される3.87億トンは、気体にすると東京ドームの約173,000杯分という計算になります(計算は間違っていないと思いますが、念のため確認してください)。日本全体では、この約3倍の約51万杯分ということになります。
<あなたの家の電気の消費量からCO2排出量を試算できます。ここをクリックしてください>
ライフサイクルCO2排出量
前項では、電力会社別のCO2排出量を見てきました。電力会社は、火力発電を中心に原発、水力、地熱、あるいは太陽電池を含む自然エネルギーで電気を作って(一部買って)販売しています。したがって、これらを総合したCO2排出量ということになります。
では、火力発電、原子力発電、太陽電池はそれぞれどれくらいのCO2を排出しているのでしょうか。
火力が最もCO2排出が多いことは容易に想像できます。なにしろ、温暖化の元凶といわれる化石エネルギーを使って発電しているのですから。では、太陽電池は?風力は?どうなのでしょう。
「太陽電池の仕組み」で述べたように、太陽電池はセルという密閉された中で光を電気に変えているだけですから電気を発生させる際に CO2を排出することはありません。風力も風の力で羽根を回しているのでCO2は排出しません。でも、システム全体で考えるとゼロとはいえません。太陽電池はセルだけで成り立っているものではなく、配線があり、パワーコンディショナーという機器があったりして、発電をしていない時(夜など)でもシステムを維持していくために通常の電気(商用電力)を必要としているからです。したがって、太陽電池といえどもCO2を排出しているのです。風力も同様です。
さらに考えれば、太陽電池を製造するときに、原料から単結晶シリカを製造したり、工場でパネルを組み立てたり、さらに原料や製品の運搬などで当然のことながらエネルギーを消費しています。したがって、それに伴うCO2を排出しています。これらも考慮する必要があります。
このことは太陽電池だけに限りません。風力などの他の自然エネルギーも、火力発電や原子力発電も装置の製造や建設段階で電気や燃料などのエネルギーを消費し、CO2を排出しています。さらに廃棄する場合もエネルギーが必要です。
この場合に参考になるのが、ライフサイクルCO2排出量です。すなわち、製造~稼働~廃棄までのいわば装置の一生の間に排出されるCO2量を評価しようというのがライフサイクルCO2排出量という考え方です。これについては、電力中央研究所(以下、電中研)が発表している資料出典1)があります。電中研は、2000年にこの評価を行い、その後の技術の進歩を踏まえて、2010年に再評価を行っています。
ここでは、再評価された数値出典1-1)を抜粋してみます。化石燃料発電の括弧内の数字は、使用燃料による排出量(内数)です。参考までに2000年の評価も2行目に括弧付きで記載しています。
| 風力 | 太陽光 | 地熱 | 水力 | 原子力 | LNG火力 (複合) | LNG火力 | 石油火力 | 石炭火力 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 25 | 38 | 13 | 11 | 20 | 474(376) | 599(476) | 738(695) | 943(864) |
| (29) | (53) | (15) | (11) | (24) | (519) | (608) | (742) | (975) |
注)前提条件出典1-2):出力 3.84kW、発電量5,046kWh/年
火力発電では、その大部分が燃料によるもので、943g(石炭火力)~474g(天然ガスの複合発電)と高い値を示しています。でも、両者の間には2倍近くの大きな差があります。前項であげた電力会社別CO2排出量と比較すると、CO2排出量の少ない会社は、排出量の少ない発電形態の占める割合が大きいのではないかと推測されます。
自然エネルギーや原子力発電は当然のことながら、火力発電に比べると1桁低い値となっています。太陽電池の場合は38g- CO2/kWhです。自然エネルギーの中では一番大きい値ですが、それでも火力発電の一番低い 474g- CO2/kWhと比べれば12分の1以下ということになります。ちなみに、10年前の2000年の評価では53g-CO2/kWhでした。10年で約28%低下しています。これは、太陽電池の架台がアルミ製から非アルミ製に変わったためと説明されています。
さて、太陽電池のライフサイクルCO2排出量は、前述のように38g/kWhです。これは、表の注)に記載した前提条件で計算されていますので、1kWの太陽電池の1年間の発生電力量に換算すると約1300kWhとなります。したがって、1kWの太陽電池が1年間に排出するCO2量は38g/kWh×1300kWh=49400g、すなわち約49.4kgとなります。太陽電池の耐用年数は30年間と設定されていますので、一生涯に発生する量は、49.4 kg×30年=1,482kg、約1500kgとなります。これは1kW当たりの排出量ですので、5kWの太陽電池なら7.5トンとなります。
太陽電池製造時のCO2排出量
上述のように、太陽電池といえどもそのライフサイクルにおいてCO2を排出することが具体的な数値で示されました。そのうちの製造時のCO2排出量はどれくらいでしょうか。それを考える際に参考となる指標があることがわかりました。
それは、エネルギーぺイバックタイム(Energy Payback Time。以下、EPT)という指標です。「ライフサイクル中に投入されるのと同じだけのエネルギーを、発電によって節約できるまでに必要な稼働期間を表す」と定義されています出典3)。
これは、ある装置の製造から廃棄に至るまでのライフサイクル中に使用されたすべてのエネルギー(A)とその装置が稼働開始後に発生するエネルギー(B)を比較し、装置を何年稼働すれば、A=Bとなるかを表す指標です。これが短いほどエネルギー消費量が少なく、環境により優しい装置ということになります。
発電方法別のEPTのデータが産業技術総合研究所(以下、産総研)のサイト出典4,5)にまとめられています。そのホームページから抜粋して以下に示します。
| 水力発電 | 地熱発電 | 風力発電 | 太陽光発電 (最新技術) | 太陽光発電 (旧来技術) | 原子力発電 | 火力発電 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.60 | 0.97 | 0.56-0.79 | 0.98-1.9 | 1.4-2.6 | 0.40-1.3 | 1.4-5.0 |
注)EPTをグラフで見たい方は、こちらをクリックしてください。
なお、原子力発電と火力発電は、稼働中に運転用として燃料(核燃料、石油など)を消費するためぺイバックしません。注入したエネルギーを回収できないということです。そこで、運転用燃料を除いた製造時~廃棄時のEPTが別個に計算されています。表にはその数値を掲載しています。太陽電池や風力発電も光や風などをエネルギーとして発電していますので、これを考慮する必要があるかもしれません。しかし、これらは太陽や地球が生み出している自然エネルギーであり、そのためには太陽や地球の寿命等を考慮する必要があります。それはあまり合理的ではなく、「そのような計算で地球や太陽の残り寿命(数十億年)を心配するくらいならば、人類の未来を心配する方が合理的ではないか」という記述が産総研のレポート出典4)。にあります。
以上より、太陽電池はライフサイクル中に消費するエネルギーを1年~3年で生み出し、それ以降は、エネルギーを消費することなく、電気を発生し続けると考えることもできます。ということは、ライフサイクルCO2排出量も1~3年でプラスマイナス0になるということになり、以後はCO2の排出量はゼロと考えることもできます。
なお、前に太陽電池は、太陽が出ていない夜間などに機器の維持のため電気を使用しているので、稼働時のCO2排出量はゼロではないと書きましたが、その量は待機電力のようなもので微々たるものと思われます。したがって、ライフサイクルCO2排出量のほとんどは製造時のものとみなしてもいいように思われます。したがって、太陽電池製造時のCO2排出量は、約1.5トン/kW程度と推測されます。
ちなみに、NEDOの報告書出典6)では、太陽電池の製造時のCO2排出量は1KW当たり約0.65~1.35トンと計算されていますので、以上の推測結果は妥当なものと考えられます。なお、NEDOの報告書では太陽電池の種類別に計算された結果が掲載されており、CO2排出量が最も少ないのはCIS系、多いのは単結晶系となっています。
CO2ペイバックタイム
前項では、LC-CO2排出量とEPTから太陽電池の製造時のCO2排出量を推測しましたが、これらはもともと独立して算出されたものです。エネルギーの消費とCO2排出は密接に関連していると考えて、両者を結び付けて述べてきました。
実は、もっと直接的な指標としてCO2ペイバックタイムというのがあります。これはEPTと同様に、太陽電池の製造から廃棄までの一生涯に排出するCO2が稼働後何年で取り戻せるかを示す指標です。NEDOの報告書出典6)によると、その値は太陽電池の種類によって異なりますが、おおむね約2~3.5年(住宅用)と計算されています。EPTの値より少し高めに出ているようです。
管理人の太陽電池の場合
ここまでは、一般的な数値でいろいろ述べてきました。せっかくですので、管理人の太陽電池を例にして計算してみたいと思います。
現在(H26.7)、管理人の太陽電池(駐車場置き)の累計発電量は、約5800kWhです。この量を東京電力が発電したとすると、5800×0.525=3045kgのCO2が排出されたことになります。しかし、太陽電池なら5800×0.038=220kgしか排出しないので、3045-220=2825kgのCO2の排出をしなくて済んだということになります。
ちなみに管理人の設置した太陽電池のカタログでは、生産時のCO2発生量は1kWh当たり0.0455kg、これを加味したCO2削減量は0.5045kg/kWhと記載されています。これに基づくと、削減量は5800×0.5045=2926kgとなります。なお、ここで用いられている数値は、太陽光発電協会の自主ルール(H25.5施行)出典7)によって表示されているとのことです。
<あなたの太陽電池の場合>
あなたの太陽電池を例にして、CO2の排出に関する計算ができます。ここをクリックしてください。
太陽電池はCO2排出量を『削減』しているか?(私見)
<お断り>ここに述べることは、管理人の独り言です。そのつもりで読んでいただくようお願いいたします。
太陽電池メーカーのカタログ等には、「年間○○kgのCO2を削減する(した)」という表現があります。たしかに上に述べたように、太陽電池システムのCO2排出量は多くありませんが、だからといってCO2の排出を『削減した』ということになるかどうかは疑問です。
要は、削減する(した)というのではなく、CO2の排出を抑えることができる(できた)、あるいは上に書いたように、排出しなくて済んだという表現がいいのではないかというのが管理人の考えです。すなわち、1kWhの電気を作るのに、通常の火力発電では、CO2が500g発生するところを太陽電池では40gの排出で抑えられるので、差し引きkWhあたり460gのCO2を排出せずに済んだというのが正確な言い回しのように思います。
京都議定書によって、先進国は削減目標を設定していますが、あれは国全体として排出量を削減することを意味しているのであって、我々が太陽電池の導入によって削減したというにはあまりにおこがましい気がします。他にCO2の排出量が多いものがあれば、全体としては削減したことにならないかもしれません。
もちろん、『削減』でも全くの間違いとはいえないし、カタログ等ではインパクトのある表現も必要なので、管理人としては私見にこだわるつもりはありませんが、ちょっと気になったので・・・・・。
出典:
1-1)「電源別のライフサイクルCO2排出量を評価」 電力中央研究所 電中研ニュース No.468 August 2010(URL:http://criepi.denken.or.jp/research/news/pdf/den468.pdfからダウンロード可)
1-2)「日本の発電技術のライフサイクルCO2排出量評価-2009年に得られたデータを用いた再推計-」 電力中央研究所報告Y09027 (2010年7月)
2)電気事業者別排出係数一覧 環境省(URL:https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc
3)補足資料(EPT/EPRの定義) 産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター (URL:https://unit.aist.go.jp/rcpvt/ci/about_pv/supplement/EPTdefinition.html)
4)「再生可能エネルギー源の性能」 産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター (URL:https://unit.aist.go.jp/rcpvt/ci/about_pv/e_source/RE-energypayback.html)
5)「太陽光発電のエネルギー収支」 産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター (URL:https://unit.aist.go.jp/rcpvt/ci/about_pv/e_source/PV-energypayback.html)
6)太陽光発電システムのライフサイクル評価に関する調査研究 平成19-20年度新エネルギー・産業技術総合開発機構委託業務成果報告書 みずほ情報総研㈱
7)表示に関する業界自主ルール(平成24年度) 太陽光発電協会 (URL:http://jpea.gr.jp/pdf/rules_expression_h24.pdf)